Sakura Tools¶
モデラーのための強力なバッチ処理ツールキット
概要¶
Sakura Toolsは、特にBlenderの外に持ち出すことを目的としたNPR(ノンフォトリアリスティックレンダリング)キャラクターを制作する方々を想定し、キャラクターモデリングとリギングのワークフローを劇的に改善するためのツールキットです。
本アドオンでは、多数のオブジェクトで構成されるキャラクターモデルの制作において、迅速な反復調整および効率的な改善作業を実現するために工夫された機能が提供されています。
また、作成モデルをBlenderの外に持ち出すエクスポート作業において、一般的にモディファイアの適用など多くの作業が必要になりますが、本アドオンはその種の作業を一瞬で解決するために設計されています。このため、多様なモディファイアを積んだモデルのエクスポート作業時の面倒さがボトルネックではなくなり、Blenderの機能を最大限に活用したワークフローの構築が可能となります。
特徴¶
本アドオンは、多くの機能でバッチ処理に対応していることが最大の特徴です。
ほぼすべての機能において、複数のオブジェクトやボーンに対して一括した処理を実行できます。特に、アーマチュアとそれに関連付けられたオブジェクト(アーマチュアモディファイアで変形されるメッシュオブジェクト)をまとめて「モデル」という単位で扱い、多くの機能をモデルを対象として実行することができます。
例えば、「モディファイアの一括適用」機能をアーマチュアを選択した状態で実行すると、その「モデル」、すなわちアーマチュアに関連付けられた全てのメッシュオブジェクトを対象にしてオペレーターが起動します。これにより、オブジェクト選択の手間を省き、わずかな操作で必要な作業を完了できます。
複雑な処理や時間のかかる処理を行うオペレーターでは、まず設定画面が開き、そこで詳細を設定・確認してから実際に処理を実行できるため、間違いや手戻りを最小限に抑えることができます。
また、多くの機能で「再実行」モードが用意されており、前回の設定を再利用して同じ処理を繰り返すことができます。これにより、ベースモデルの修正に合わせ、関連オブジェクトの再調整を瞬時に行うことができます。
機能概要¶
Sakura Toolsには多数の機能があり、3つのカテゴリに分類されています。
モデリング補助¶
オブジェクトモードやメッシュ編集モードでの作業を効率化。
- オブジェクトツール
- バッチリネーム、プロパティ一括設定、オブジェクトをモデルに追加など、オブジェクトを対象とした機能
- モディファイアツール
- オートミラー、オート厚み付け、モディファイアの一括追加・適用・削除など、モディファイアを対象とした機能
- ポーズベイクツール
- ポーズベイク機能、ポーズからシェイプキーの作成
- メッシュデータツール
- ウェイト転送、カスタム法線のアタッチ、メッシュデータの掃除など、メッシュデータを対象とした機能
- メッシュ編集ツール
- 一時シュリンクラップ、クイックラティス、デカールオブジェクトの作成・管理といった、メッシュ形状の編集を効率化する機能
リギング補助¶
ポーズモードやアーマチュア編集モードでの作業を効率化。
- 名前変更
- 検索・置換によるボーンまたは頂点グループのリネームや、命名規則の変換、ボーン列の一括名前合わせなど
- 構造
- 変形ボーンの抽出、対称性チェックなど、アーマチュアの構造を分析、調整する機能群
- 階層
- ボーンのヒエラルキーに対して特殊な操作を行なう機能群
- 配置
- 整列や方向合わせなど、ボーンの配置に関する機能群
- ボーン作成
- メッシュの選択エッジからボーン列を作成。他の機能も追加予定です。
- リグ作成
- 補助ボーンの設定、捩りリグ、まぶたリグ、デュアルジョイントリグの作成・調整など
- コンストレイント
- 既存ボーンに対する各種リグ機能の付与や、コンストレイントとドライバーのコピー、対称化など
- コントローラー
- ボーンチェーンにコントローラーを付与。その他の機能も追加予定。
シーンデータユーティリティ¶
シーン全体やワークスペース全体のデータ管理を支援。
- 画像チェッカー
- シーン内の画像データの一覧、変更チェック、重複解決、ユーザー確認、バッチ色空間設定など
- モデル変更検出
- リビジョンデータを作成し、モデル編集後にどのオブジェクトやデータが変化したのかが確認可能に
- データクリーナー
- ワークスペース(Blendファイル)内にこびりついた不要オブジェクトの検出、削除を支援
ユーザーインターフェイス¶
Sakura Toolsの基本的なユーザーインターフェイスは、3Dビューのサイドバー"Sakura" タブに配置されています。各機能は、そのカテゴリに応じてサブメニューに分類されています。各機能は、ボタンをクリックすることで直接実行できます。
また、コンテキストメニューにもSakura Toolsの機能が追加されています。コンテキストメニューは、Blenderのデフォルトではw
キーで表示されるメニューで、現在のモードに応じた機能が表示されます。Sakura Toolsのおおよそ全ての機能は、ここから素早くアクセス可能です。
また、サブメニュー上には、オブジェクトやボーンの基礎的なプロパティなどのうちよく使う項目へのクイックアクセスが用意されています。
再実行モード¶
複雑な設定を必要とする多くの機能で「再実行」モードが用意されています。再実行モードでは、前回の設定が利用されるため、同じ設定での処理を繰り返すことができます。
例えば「ウェイト転送」機能では、初回実行時に転送対象となるオブジェクト(群)を選択した上で、ウェイトの転送元となるオブジェクトをアクティブにして実行する必要がありますが、一度実行したあとは、転送対象のオブジェクトを単体で選択するだけで、前回の設定を再利用したウェイト転送が実行できます。
他にも、「デカールを調整」機能などで再実行モードが利用できます。
また、再実行モードに対応したいくつかの機能は、対象オブジェクトをアクティブにした状態で、サイドパネル上の「調整ツール」にショートカットボタンが配置されます。
リギング補助ツールでの「再実行」¶
対象に対して補助的なボーンあるいはリグ機能を付与するボーンを作成してコンストレイントを設定するような機能では、同じボーンに対して再度実行することで、同じ設定で作成済みボーンが再利用され、それらのボーンが正しい位置に再配置されます。
ボーン位置を手動で編集したときに、リグを構成するボーンがずれてしまうことがありますが、そういった状況で再実行モードを利用することで、ボーンの再配置が簡単に行えます。
各機能の中身を知る(ヘルプ機能)¶
Sakura Toolsには、各機能の詳細な説明が含まれています。各機能ボタンの横にあるヘルプボタン [?] をクリックすると、その機能の説明が表示されます。また、複雑な処理を行なうオペレーターの設定画面にも、ヘルプボタンがある場合があります。
具体的な使い方や機能の詳細については、各機能のヘルプを参照してください。
Note
簡単な機能を提供するオペレーターについては、ヘルプが用意されていない場合があります。
機能ハイライト¶
Sakura Toolsの多くの機能は、その強力なバッチ処理能力により、従来なら非常に面倒な手作業を必要とした処理を非常に簡単に行えるように作成されています。以下に、特にワークフローへの影響が大きい機能をいくつか紹介します。
各機能の詳細な説明については、今後追加予定です。現時点では、各機能のアプリ内ヘルプを参照してください。
モディファイアの一括適用¶
シェイプキーを正しく維持したままあらゆるモディファイアを一括適用することができます。
- より積極的に様々なモディファイアを活用したモデリングが可能になります。
- 例えばラティスを使った造形の修正、データ転送を使ったカスタム法線の導入、厚み付けを使ったソリッド形状の作成など。
- モデルをエクスポートするとき、モディファイアを適用する必要がありますが、僅かな時間で完成モデルを生成できます。
ポーズベイク¶
現在のモデルのポーズ状態を新たなレストポーズとしてベイクする機能です。
- 通常であれば気が遠くなるほど面倒な作業になりますが、この機能を使えば多数のオブジェクトから構成されたモデルのTポーズからAポーズのような形状更新も瞬時に行えます。
-キャラクター造形作業にアーマチュア変形を本格的に取り入れることも可能です。例えば手足の長さ、頭の大きさ、体型などを変更する際に、ボーン変形を用いることで非常に素早く目的の形状を実現できることがあります。
ポーズからシェイプキーへ¶
アーマチュアのポーズをシェイプキーに変換します。複数ポーズ、複数オブジェクトを対称とした多重バッチ処理に対応しています。
- 高度な検出機能により、実際に影響を受けるメッシュオブジェクトにのみシェイプキーが作成されます。
- ポーズライブラリを対象としてバッチ処理に対応しているので、多数のポーズを一度にシェイプキーに変換することも可能です。
- Sakura ToolsではBlender 3.4以前のポーズライブラリのほか、Sakura Poselibのポーズブックにも対応しており、迅速な表情作成が可能です。Blender 3.4以降のポーズアセットへは今後対応予定です。
ウェイト転送機能¶
非常に「賢い」ウェイト転送機能です。
Blender標準でも同様の機能をサポートしていますが、扱いが難しいです。このウェイト転送機能はより柔軟で扱いやすく、素早く、また必要な部分のみにウェイトを転送することもできます。
Tip
特にベースメッシュの反復修正を行う際、衣服のウェイト調整が必要になることがよくありますが、そこで「再実行」を利用することで即座に修正を反映でき、すぐに次の作業へ入れます。
デカール作成機能¶
デカールオブジェクトを作成、管理します。
デカールとは、頬染め、タトゥーなど、形状表面に貼り付けるようなオブジェクトのことです。
- ベースメッシュの面選択状態から素早くデカールオブジェクトを作成できます。
- 「再実行」を利用することで、ベースメッシュの変更があった場合でも、1クリックでデカールを正しく再配置できます。
- その際にウェイトの同期も行われますので、ベースモデルの反復修正がやりすくなります。
カスタム法線の割当¶
キャラクターの顔メッシュの法線を整えてシェーディングを綺麗にするため、既定のカスタム法線オブジェクトを割り当て、データ転送モディフィアを設定します。
- おおむねどのキャラクターでも良い結果を得られる方式を使用しています。
- デフォルトでは、自動的に適切な場所に配置できますが、調整が必要な場合もあります。
- 実行後、対象オブジェクトの頂点グループを適切に編集する必要があります。具体的には、正面を向く部分の値を1.0とし、境界を適切にぼかします。
各種リグ作成機能¶
捩りリグ、まぶたリグ、デュアルジョイントリグといった複雑ながら効果的なリグを簡単に作成。
- これらのリグはMMDやその他のプラットフォームでそのまま利用できる構成で作られており、モデルの動作を簡単に改善できます。
- このため、比較的基本的なコンストレイントやドライバのみを使用しています。
- 例えばまぶたリグでは、コントローラーを平面上で動かすだけで、まぶたのメッシュが眼球の表面に沿って動くようになります。
- デュアルジョイントリグでは、足の付根や膝などの大きな関節が極端な角度になるときにボリュームを維持しやすくなり、より自然な動作が可能になります。
- 簡単な変形補助ボーンなどはまさに一瞬で、複数の部位に必要なものを作成できます。
これらの機能のほかにも、多数の便利な機能があります。ぜひサブメニューを開いて、各機能を試してみてください。
開発の背景と活用例¶
作者はMMD/Unityモデルの制作において、いまやこれなしでは不可能なほど本アドオンに依存しています。
- 基本的に、全オブジェクトにミラー、サブサーフ、厚み付け、重み付き法線…… といったモディファイアを使用。
- 各種衣装パーツやエフェクトパーツも含め、1モデルあたり30~50個のオブジェクト。
- 表情制作はボーンポーズで行なう。シェイプキーを直接作るよりも速く、ベースメッシュの形状変更にも強い。
- 肩、肘、膝に変形補助ボーン、瞼にはまぶたリグを使用。太ももと膝にデュアルジョイントを使用。
このような仕様でモデルを制作しているため、エクスポート時に全てのモディファイアを適用し、見たままをエクスポートできるようにするまで、手作業では非常に多くの、困難な作業が必要です。シェイプキーが絡んだり、ポーズ変更が必要になると、手作業ではほぼ無理になります。
そのワークフローを極限まで高速化するため、本アドオンに搭載された各機能を継続的に洗練させてきました。結果として、現在では上記のような仕様のモデルを数分でエクスポート可能状態に持っていけるようになっています。
特に、モディファイア一括適用時のサブサーフ特殊処理が大きいです。適用時に自動的にウェイトをスムージングすることで、アーマチュア変形を美しく保つことができる上、重要な部分のウェイト(髪の毛先端など)はそのまま保持する機能も付与したため、雑にモデル全体へ適用するだけでほぼ修正無しにエクスポート可能なモデルが生成されます。
他にも、モデリングやリギングの作業時に必要となった、細々とした機能も含め、モデラーの皆さんに役立つであろう機能群を洗練、整理し、本アドオンに集積しました。
慣れは必要かもしれませんが、このアドオンが提供する機能が皆さんのワークフロー改善に役立つことを願っています。
計画¶
- アニメヘア作成支援機能
- 選択頂点からボーンを作成